大阪地方裁判所 平成7年(ヨ)944号 決定 1995年11月28日
債権者
大西陸子
右代理人弁護士
桐畑芳則
債務者
学校法人履正社
右代表者理事
釜谷行蔵
右代理人弁護士
三瀬顯
主文
一 債権者の申立てを却下する。
二 申立費用は債権者の負担とする。
理由
第一申立て
一 債権者が、債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者に対し、平成七年四月から本案判決の確定に至るまで毎月二五日限り金三四万九三六六円を仮に支払え。
第二当裁判所の判断
一 本件は、債務者の設置する履正社高等学校(以下「本件高校」という)の非常勤講師として、平成五年四月一日から雇用されていた債権者が、平成七年二月一日付けの書面で、同年三月二五日の満了をもって雇い止め(更新拒否)する旨の通知を受けたことについて、この雇い止めは解雇であり、そうでないとしても債権者には雇用の継続を期待できる理由があるから、解雇の法理の適用又は類推適用がなされるべきところ、右雇い止めには合理的な事由がなく、権利の濫用として無効であるとして申立てたものである。
二 当事者間に争いのない事実、疎明資料(ただし、書証略以下を除く)並びに本件審理の全趣旨によると、以下の事実が一応認められる。
1 債務者は、本件高校ほか三校の私立学校及び各種学校を設置、経営する学校法人である。
2 債権者は、昭和四八年三月京都大学文学部を卒業、昭和五四年三月同大大学院文学研究科博士課程を終了し、同年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで同大学研修員を続ける傍ら、昭和五六年四月一日から二年間(一年契約を一回更新)龍谷大学文学部及び法学部非常勤講師、昭和四七年四月一日から一年間同大学経済学部非常勤講師、昭和五八年四月一日から現在まで(一年契約を一二回更新)平安女学院短期大学非常勤講師などを勤めたほか、専修学校、予備校における教師などの経験を有するものである。
3 債務者は、債権者との間で、債権者を本件高校の非常勤講師として、平成五年四月一日から平成六年三月二五日までの期間雇用する旨の契約を締結し、同契約は平成六年四月一日から平成七年三月二五日までを期間として更新された(以下「本件契約」という)。
4 債権者は、社会科及び英語科の高校教諭の免許状を有し、本件高校では、一年目は世界史を週一一時間担当(うち、単位を認定する正規授業は七時間)、二年目は世界史、英語、国語を合計週二一時間担当(うち、単位を認定する正規授業は世界史、英語の一一時間)し、賃金は、担当時間を基準に算定し、正規授業分のみが月額単価として固定した基本給となり、補習授業分は現実に実施した時間分が手当として支給されていた(債権者は補習授業分も固定するよう希望していたがいれられなかった)
また、非常勤講師の勤務時間は、担当する授業時間のある日に出勤し、終了すれば下校できる形態であった。
5 債務者は、債権者に対し、平成七年三月二五日をもって本件契約の期間が満了し、雇い止めをする旨の通知(以下「本件雇い止め」という)をし、同通知は同年二月四日ころ債権者に到達した。
三 債権者は、平成五年四月一日からの雇用契約が、非常勤講師として平成六年三月二五日までの期間を定めたものであること、そして、債権者が、債務者との間で平成六年四月一日から平成七年三月二五日までを契約期間とする非常勤講師契約書(書証略)に署名したことは認めるものの、債権者は、非常勤講師として債務者と契約するに至ったのは、最初の契約に際し、当時、面接に当たった本件高校の井内嘉美校長から、二年目以降は専任教諭として期間の定めのない契約をするとの約束がなされたことによるものであるとして、本件契約は期間の定めのない契約であり、期間の定めのある契約であったとしても、債権者が期間満了後の雇用の継続を期待することに合理性が認められる場合に該当するから、その雇い止めには解雇の法理が適用又は類推適用されるべきである旨主張する。
四 よって、検討するに、債権者が債務者に雇用されるに至った経緯については当事者間の主張に相違があるものの、債権者と井内校長との間にはそれまで面識がなかったというのであるから、債権者がいかに京都大学卒業者で、同大学院博士課程終了者であるとしても、最初の面接時に債権者主張のような約束をしたと容易に認めることはできない。
また、債権者は、同校長が平成五年八月三一日に債務者を退職してからも、債務者側との間で契約期間を確認することをしないまま勤務を続け、契約期間を明記してある平成六年四月八日付けの、前記非常勤講師契約書に署名しているのであるから、本件契約は、一年を超えない雇用期間の定めのある契約として成立したものと解される。
そして、債権者が、これまでいくつかの学校などで、期間を定めた非常勤講師をしたことがあり、債務者に雇用された後も、平安女学院短期大学非常勤講師を兼任していることなど前記認定の債権者の経歴、本件高校における勤務の形態、勤務期間などに照らせば、債権者が本件契約の期間満了後も雇用の継続を期待することに合理性があるとはいえないから、本件雇い止めに解雇に関する法理の適用又は類推適用があるとする債権者の主張は理由がない。
そうすると、本件契約は、平成七年三月二五日の満了をもって当然に終了したものというべきである。
五 以上の次第で、債権者の本件申立は被保全権利の存在について疎明がないことになり、その余の点について判断するまでもなく理由がないので却下することとする。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 井筒宏成)